P-糖タンパク質の発現細胞を用いたin vitro実験において、グレープフルーツジュースからの抽出成分がP-糖タンパク質による薬物輸送を阻害することが報告されています。
しかしながら、おおくのカルシウム拮抗薬はP-糖タンパク質の基質ではない(P-糖タンパク質の阻害薬ではある)ようなので、相互作用は起こらないと考えられます。
またグレープフルーツジュースの成分とP-糖タンパク質の相互作用は競合阻害であると考えられるのでCYP3A4阻害の場合のように顕著には現れないと考えられます。
カルシウム拮抗薬がP-糖タンパク質によって輸送されるのか?
P-糖タンパク質を欠損させたマウスを用いた実験によるとベラパミルはP-糖タンパク質によって輸送されることが示されていますが、他のカルシウム拮抗薬に関しては輸送されません。
また、ヒト消化管由来培養細胞を用いた輸送実験の結果、P-糖タンパク質の基質であるビンブラスチンの輸送はP-糖タンパク質の特異的阻害薬により変化しますが、ニカルジピンの輸送は変化しないことが示されています。
グレープフルーツによるp-糖タンパク阻害が薬物に与える影響
グレープフルーツジュース飲用が薬物の消化管吸収を増加させるかについてP-糖タンパク質の発現細胞を用いたin vitro実験が行われました。結果、P-糖タンパク質の阻害薬と同様に、グレープフルーツジュースからの抽出成分がP-糖タンパク質による薬物輸送を阻害することが分かりました。
この実験から、ある種の薬物におけるグレープフルーツジュースによるバイオアベイラビリティの増加は消化管粘膜細胞のチトクローム P450(CYP3A4)の代謝機能阻害だけでなく、粘膜細胞のP-糖タンパク質の排出輸送阻害が原因となっている可能性も考えられたのです。
次に、臨床試験in vivo(*)、Becquemontらが行った試験を紹介します。P-糖タンパク質の基質であるジゴキシンの体内動態に及ぼすグレープフルーツジュース飲用の効果を検討したものです。
次に、臨床試験in vivo(*)、Becquemontらが行った試験を紹介します。P-糖タンパク質の基質であるジゴキシンの体内動態に及ぼすグレープフルーツジュース飲用の効果を検討したものです。
平均26歳の12人の健常人にジゴキシン0.5 mgを水あるいはグレープフルーツジュース(50 ml)とともに服用してもらいました。ジゴキシン投与の30分前、投与後3.5時間、7.5時間、11.5時間後にも220 mlの水またはグレープフルーツジュースを飲用させました。
その結果、グレープフルーツジュース飲用によって、0~4時間のAUC、及び0~24時間の AUCの10%弱の増加が示されていたものの、P-糖タンパク質の基質であるジゴキシンの最高血中濃度、0~48時間の血中濃度下面積(AUC)には統計的に有意な変化は観測されませんでした。
また同時にCYP3A4活性の指標である3-methoxymorphinanと dextromethorphanの尿中代謝比を測定したところ、グレープフルーツジュース飲用によって有意に低下していました。つまりグレープフルーツジュースによってCYP3A4の活性は低下していることは示されています。
以上の結果より、P-糖タンパク質の基質であるジゴキシンとグレープフルーツジュースとの間の相互作用は臨床的に重要な相互作用であるとは言い難く、in vivoにおいてP-糖タンパク質の機能にグレープフルーツジュース飲用が影響を与えるという知見は見られませんでした。
以上の結果より、P-糖タンパク質の基質であるジゴキシンとグレープフルーツジュースとの間の相互作用は臨床的に重要な相互作用であるとは言い難く、in vivoにおいてP-糖タンパク質の機能にグレープフルーツジュース飲用が影響を与えるという知見は見られませんでした。
In vitroではグレープフルーツジュースのP-糖タンパク質阻害作用が認められているにもかかわらず、in vivoではそれが認められないのは、おそらく、グレープフルーツジュースのP-糖タンパク質に対する阻害能が低いためだと思われます。
CYP3A4への阻害作用はフラノクマリン類によるmechanism based inactivationによる不可逆的な阻害であり、また2量体などによる強い競合阻害によると考えられています。
しかしP-糖タンパク質への阻害作用は、競合阻害であり、しかも親和性は強くないものと考えられます。
その他、グレープフルーツとP-糖タンパク質を介した相互作用の機序については、ほとんど否定的な結果が出されています。
(PMID:10227700)
(PMID:11673746)
(PMID:15903127)